ART美術 Feature

絵は床で描いて、壁で見る──画家・三浦澄子のアトリエで

群馬県桐生市の織物工場跡を借りて12年になる画家の三浦澄子さんは、幅2メートルの麻布を床に広げ、上から絵具を置いて描く。12月の個展を前に、乾くのを待つ5枚が並ぶアトリエを訪ねた。

白い壁の工場跡の床に、青と黄土色の抽象画が描かれた麻布が5枚並び、黒いコートの女性が立って見下ろしている
個展に出す5枚を床に並べて乾かしている。手前の1枚は、乾くまでに10日かかる。撮影:編集部

桐生駅から車で10分ほど。のこぎり屋根の工場の奥に、三浦さんのアトリエがある。もとは帯地を織っていた建物で、北向きの天窓から入る光は、朝と夕方でもほとんど変わらない。

「ここに決めたのは、床が広いことと、この光です。南向きの部屋だと、午後になると色が全部違って見えるので」

床には麻布が5枚。いちばん大きいものは210×160センチある。木枠に張るのは描き終わってからで、描いているあいだは布のまま床に置いておく。

立てると、絵具が下に流れる

床で描くようになったのはいつからですか。

大学を出て3年目くらいです。それまではイーゼルを立てて油絵を描いていたんですが、溶き油を多めにした絵具が、どうしても下に垂れてしまう。垂れないように油を減らすと、今度は色が濁る。試しに布を床に置いてみたら、絵具が置いたところにとどまってくれた。理由はそれだけです。

上から描くと、全体が見えにくくないですか。

見えません。だから脚立を使います。2メートル50の脚立に上って見下ろして、降りてまた描く。一日に何十回も上り下りするので、膝のサポーターが欠かせません。

1枚に10日、乾くのを待つ

三浦さんが使う絵具の半分ほどは、顔料から自分で練ったものだ。黄土は栃木の業者から、群青は京都の画材店から取り寄せている。油の配合を毎回変えるので、乾くまでの日数も一定しない。

乾くのを待っているあいだは、何をしていますか。

別の布に描いています。5枚くらいを同時に進めて、乾いたものから順に戻る。ほかの絵を描いているあいだに、前の絵から少し離れられるのもいいんです。描いているときは近すぎて、何が起きているのか分からないので。

床にあるうちは、まだ絵になっていない気がします。壁に掛けて、自分が見上げる側になって、やっと見られる。

三浦澄子

木枠に張るのは、搬入の3日前

描き終わった布は、搬入の直前に木枠に張る。張った状態で置いておくと、床で描いていたときの布のたわみがなくなってしまうからだという。

張ると、絵の印象は変わりますか。

変わります。床で見ていたときに「ここが重い」と感じていた部分が、壁に掛けると下に落ちて見える。だから最後の3日で手を入れることも多いです。ギャラリーの人には、毎回いい顔をされません。

今回の個展では、新作5点のほかに、2019年に描いた1点を並べる。一度売れた作品を、持ち主に頼んで借りてきた。

なぜ旧作を一緒に展示するんですか。

床で描き始めて最初の、絵具が垂れていない絵なんです。あれを横に置いておかないと、自分がどこから始めたのかを忘れてしまう。

  • 展覧会三浦澄子「床の上」
  • 会期2026年12月4日〜12月27日
  • 会場ギャラリー白根(東京都台東区)
  • 開廊12:00〜19:00、月・火曜休廊
  • 入場無料

この記事はJUNKBRANDINGのデモ用に作成したものです。登場する人物・団体・施設・発言は、すべて架空です。

編集長

森下千里

1971年生まれ。美術出版社で月刊誌の編集を18年担当したのち、2019年にJUNKBRANDINGを創刊。美術と写真の記事を担当。休みの日はたいてい古本市にいる。